ひとりのセラピストのひとりごと

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ひとセラは、手に職つけたい人、つけた人の総合情報ブログ。

鍼灸師は外の世界を見た方がいい。手に負えない患者さんに会うことは自分の限界を突破できる話

鍼灸治療は即効性があり効果を強く感じられる代替療法です。

効果があるのでときに鍼灸師は自分の力量を過信することすらあります。

自分の限界を知るためにも、自分が助けられない患者さんを見ることはとても大切だと思います。

今日は鍼灸師の「手に負えない患者さん」についてお話します。

 

鍼灸はすばらしい効果がある!人を人として見つめる医療

鍼灸治療はご周知のとおり即効性があり効果を感じやすい治療法です。科学的な解明がしずらい反面、人を人として観察し包括的に治療します。

病院の薬や手術にはときに疑問を持つこともあります。薬を大量投与するのは、必要なことです。しかしその患者さんの姿は、果たして人であるのだろうか?

このように考えるケア思考の強い医療者が鍼灸師に多いです。

 

しかし鍼灸師にも色々な人たちがいます。

病院医療に疑問を持ちケアをしたいという意思のある鍼灸師と、病院医療にまったく興味がない鍼灸師がいます。

 

私は鍼灸治療は完全な医療であると思っています。医療者である以上は鍼灸師も病院医療のことを知るべきです。

しかし鍼灸は教育のなかで一般的に行われている病院の現場を見ることがありません。興味のある人が自発的に見に行くという状況です。

 

鍼灸治療は効果があります。

そのため、ときどき力量を過信する鍼灸師がいることも事実です。

 

鍼灸治療の限界を知り、これから何をしていけばいいか?よりよい医療になるかを考えるには、医療全体を知る必要があります。

 

病院には絶対に鍼灸治療で治せない患者さんがいます。

私が見た、絶対に鍼灸治療で治せない患者さんのお話をします。

 

病院は社会の縮図!病院にいる人たち

病院には「治す側」の人たちと、「治してもらう側」の人たちがいます。

 

治す側は資格を持った医療職のスタッフです。鍼灸師はあまり病院に接する機会がありませんが、病院には鍼灸師の知らない職業がたくさんあります。しかしやっていることは鍼灸師と全く同じで、患者さんを救うためにみんなが働いています。

 

病院の患者さんのレベルも様々です。レベルとは、病状の良さ・悪さのことです。

身の回り全てを手伝ってもらわないと生きられない人から、全部自分でできるけど、具合の悪い人もいます。

外来には身の回りのことを自分でできるADL自立の人たちが多いですが、長期入院病棟には自分では何もできない全介助の人もいます。

 

参考

www.tyojyu.or.jp

 

患者さんを治すために!病院で働く医療職

病院には様々な種類の医療職が働いています。

病院といえば医師・看護師ですね。医師の指示で看護師が患者さんに注射をしたり点滴をしたりします。しかし医師の指示で働く医療者は、ほとんど全ての人たちです。

レントゲンなどの放射線技師、検査技師、リハビリスタッフ、お薬の薬剤師などは医師の指示で仕事をしています。

 

指示というと絶対的で偉そう!な気がしますが、法的な秩序なので実際はフェアな関係です。

医師の指示のことを「オーダー」と言いますが、オーダーに不備があれば各職種が医師に直接「ちょっと変なんですけど?」と意見します。

私はあん摩マッサージ指圧師として病院で働いていますが、医師に診察をして欲しいときや、相談がある時は自分からお話したりお手紙を書いています。

お医者さんも専門外のことはわかりません。そういう時は、他職種の人が教えてあげたり、話してあげることになります。

 

病院に来る人たち。患者さんもレベルは様々

病院には外来や入院病棟があります。

 

外来には自宅から通院する患者さんが来ます。自分で暮らすことができるので、ADL自立の人たちです。鍼灸師が接する患者さんはこの人たちが多くなります。

 

入院病棟は患者さんのレベルは様々です。病院の種類にもよります。

高度医療病院では超急性期(救急車で運ばれて来たばかりの人たち)がいます。集中治療室があり救命の要素が強くなります。

一方で普通病棟では落ち着いた症状の患者さんが多くなります。回復を待って退院となります。

 

私が働く老人病院は末期患者さんが多くなります。末期とは命の終わりという意味で、重篤な疾患をお持ちです。自分で動く、ご飯を食べる、トイレに行く、会話をするなどは全くできない状態です。

できるだけ穏やかな生活ができるように、各医療職がケアをしていきます。

 

自分には何ができるか知るために。鍼灸師の限界を知ろう。

鍼灸師には病院の患者さんのレベルを全く知らない人が多いです。病院で働いたことのない鍼灸師が多いためです。

鍼灸師は病院で言う外来患者を取り扱うので、患者さんの状態把握がイメージできません。

 

私が見た超急性期患者さんと、超末期患者さんのお話をします。

 

超急性期、私たちは何もできない

私は在学中に高度医療病院の循環器病棟で働いていました。

同じフロアに集中治療室もあったので、普通病棟と行き来していたのですが、どちらも鍼が有効な患者さんはいませんでした。

 

集中治療室の超急性期の患者さんは、手術や点滴で治療して行くので鍼が効かないのも想像できると思います。高度医療でしか治療ができません。

普通病棟も、循環器疾患の患者さんはワーファリンなど抗凝固薬を入れているので鍼の刺激はリスクとなります。

 

抗凝固薬は血液を固まりにくくするお薬です。鍼は皮膚を破って刺入するので、出血することがあります。抗凝固薬を入れている患者さんは出血するとなかなか血が止まりません。

 

*私は中国に留学したときに国立病院の臨床を見せてもらったことがあります。心筋梗塞の慢性期患者さんがめまいの主訴で鍼灸科を受診していました。

背部兪穴に刺絡していたのでかなり出血させていました。心筋梗塞の患者さんなので循環器科でワーファリンを入れている可能性は高いのですが、中国では管理下で鍼の治療もしていたようです。

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何もできない私がCCUでできたこと

私は当時学生アルバイトで看護助手をしていました。

看護助手は、平たく言うと使いっ走りのような仕事内容です。看護師さんのお手伝いをします。

超急性期患者さんを見たのは心臓の集中治療室、CCUでした。

CCUで私ができることと言えば、ベッドメイクとか薬剤の搬送くらいです。

 

しかしあるとき、点滴を抜いてしまいそうな動作をする患者さんがいました。

CCUの患者さんはたくさんの点滴をつけています。CCUのベッドは大量の点滴パック、たくさんの機械と見た目がかなり物々しいです。

患者さんが点滴を抜いてしまうと命に関わる事故につながります。看護師長さんに言われて、私はその患者さんのベッドの横で座って見張ることになりました。

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患者さんは私に気づくと、話始めました(治療には影響がないことを確認しました)。

話の内容は・・・酸素マスクがあってよく聞き取れなかったのですが、好きな音楽の話とか、ピアノを弾いていた話だったと思います。

私はただウンウン言って聞いていたのですが、患者さんは次第に落ち着いてきて、冗談を言ったり笑ったりしていました。

 

看護師さんが戻ってきたので、私は席を外すことにしました。

去り際、患者さんの手に触れて

「もう抜いたらだめですよ。頼みますよ!」

と言ったら、

さっきまで笑っていた患者さんは、何度も頭を下げながら涙を流し

ありがとうございます・・・ありがとうございます

とお礼を言って下さいました。

 

私はただウンウン言いながら話を聞いていただけですが、きっと何かの役に立てたのだと思います。

 

末期医療の患者さんには鍼は打てません

私は現在、末期病棟で働いているので、患者さんには末期ガンの人たちがたくさんいます。鍼灸師にそれを話すと、「末期ガンには鍼灸がいいよね」と言われることがあります。

私が接する患者さんは、超末期の患者さんです。

私はそれを聞くと、「ああ、この鍼灸師は末期を見たことがないのだなあ」と思います。

 

確かに、鍼灸は疼痛緩和の作用が強いので痛みには素晴らしい効果を発揮します。

しかし高齢者の末期ガンの人たちは、とてもじゃないけど鍼を打てる状態ではありません。

 

人は終末期になると、ご飯を食べることができなくなります。そのためエネルギーが足りなくて、全身が衰弱していきます。

東洋医学で言うところの先天の精が少なくなった状態です。最初に脾気虚が起きます。 

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ご飯が食べられなくなったら、IVH(中心静脈栄養)を入れます。点滴で全ての栄養補給をするものです。

表皮は角質の剥離が進みます。マッサージの軽擦すら耐えられないこともあります。血管も弱くなっています。手や足などで自然に内出血が起きるので、アザがよく見られます。

さらに進行するとチェーン・ストークス呼吸などの異常呼吸が見られます。この場合にはSAT(動脈血酸素濃度)が下がっているので、酸素マスクを付けます。

 

筋肉は萎縮し、皮下組織もないのでやせ細った状態です。文字通り「骨と皮」という感じ。

この状態の患者さんには鍼は無効です。

もう自己回復する精気がありません。残りわずかになった臓腑の気が、なんとなく体を生かしているというように見えます。

仮に有効だったとしても、私にはとてもじゃないけどできません。

  

あるようでない、無意味な部署。オーダーの無いリハ室ができること

私は末期医療を行なっている有床病院のリハ室にいます。他の場所に居宅施設があるので、行ったり来たりしています。

私のリハ室はドクターからのオーダーが少ないです。外来マッサージは積極的にオーダーしてくれるのですが、機能訓練や在宅マッサージはリハビリの患者さんが減る一方です。

少なくなるのは亡くなっていくからです。みんながいなくなったらリハ室はどうなるんだろう、と思うことがあります。

廃止されても問題ないような気はしますが、医療・介護機関なので一応必要なようです。

 

仕事が少ないのでヒマなときがあります。

あるとき、今日は何もやることがない・・・という日に、「ヒマです」と上司に言いました。

上司は「ヒマなら・・・居宅施設の、エアコンのフィルター洗ってよ」と言われたので、正直いやだなー^^;と思ったのですがやることにしました。 

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居宅施設はマンションのような見た目です。全室個室で、高齢の利用者さんが住んでいます。みなさん寝たきりの状態です。

 

ひとつひとつお部屋をノックして、

「エアコンの掃除してるんですけど、見てもいいですかー?」

と伺い、フィルターの取り外しをしました。

 

利用者さん(私にとってはみなさん患者さんです)は綺麗になったエアコンのフィルターを見ると、

まあ!きれいになったね!すごいね〜。上手ね!ぜんぶ、回るんでしょ?大変ね!

と声をかけてくれる人がいたり

普段クリニックにいる私を歓迎して

あら先生、聞いてよ。座って。あのさ、おいしいレストラン知っているの!

と座って長話をすることもありました。

 

脳の障害のためにまったく話ができない人とはジェスチャーでコミュニケーションをとりました。

 

その日は50枚くらい、フィルターを洗ったのですが、人生でこれほどやりがいのある掃除はありませんでした。

 

でもせっかく国家資格とったのにエアコンの掃除するのはもう勘弁して欲しいですね・・・^^;

 

国家資格は関係ない。私たちにはできることがある。

私は無資格のときに、超急性期患者さんに接しました。

鍼灸師国家資格を取ってから、鍼灸ができない患者さんに接しました。

今までで共通して言えることは、私は確かに無力だが、何もできないわけではないということです。

 

鍼灸師の人たちに、私のように無理な患者さんに接しろとは思いません。そんなことしない方がいいに決まっています。国家資格まで取って、エアコンのフィルターを洗っている私みたいになってほしいとは全く思いません。

 

ただ、

自分に何ができないかを考えることは、自分に何ができるかを考えることと同じです。

 

できることだけを考えると、見落とすものがあります。新しい何かを発見することが難しいです。

でも視野を広げて、何ができないかまで考えると、じゃあこれをやろう、これならきっとできると気づくことがあります。

 

鍼灸では治らない人たちはいる。できないことを知ることは、できることを知るということ。

鍼灸治療は効果がありますが、適応できないひとたちも確実に存在します。超急性期や超末期の人たちは鍼灸治療のリスクに耐えられないので適応できません。どんな治療法にも適応があります。 

 

鍼灸治療の適応は国やWHO、研究機関が大まかに定めています。

日本の鍼灸師のなかには、それを自分の都合のいいように解釈して好きな治療をしている人もいます。

 

鍼灸は医療である以上、患者さんの利益にならないといけません。日本の鍼灸師は開業者が多く、経営のために売り上げに重きを置きがちです。でももっとも重要なのはその治療が患者さんの利益になることです。

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売り上げのよい鍼灸師は慢心してしまいます。どんなに慎重な性格でも、人間である以上は「慢心するかもしれない」と覚悟する必要があります。

 

私が問題だと思うのは、適応をしっかり分かっていても、鍼灸師は鍼灸師の世界を生きているので、自分たちの限界の外をまったく知らない人たちがいます。

鍼灸師が病院を知ることが何の役に立つかはまったくわかりません。役には立たないのかもしれません。

しかし医療者は医療がどういうものかを知る義務があると私は考えています。

 

自分の無力から目をそむけないで。知れば、世界が変わる。

自分の無力を感じることはいやなことです。

しかし医療者である以上、治療家である以上、鍼灸治療の限界は知らなければいけないことです。

 

鍼灸師になる人はいろんな人がいます。

しかし全ての鍼灸師が、一貫してまじめで努力家で、優しさを持っています。

好きなことを仕事にして生きていく、そんな素晴らしい人生を実現していく人たちが多い業界です。

 

好きなことを仕事にするのならば、鍼灸治療という医療が、日本のどこに位置するのかを考えるべきです。

 

多くの鍼灸師が、医療というフィールドを見つめてくれることを願っています。